新選組始末記

1963年1月3日(木)公開/1時間33分大映京都/カラーシネマスコープ

併映:「第三の悪名」(田中徳三/勝新太郎・田宮二郎)

企画 辻久一
監督 三隅研次
原作 子母沢寛
脚本 星川清司
撮影 本多省三
美術 太田誠一
照明 伊藤貞一
録音 奥村雅弘
音楽 斎藤一郎
助監督 友枝稔議
スチール 藤岡輝夫
出演 城健三朗=若山富三郎(近藤勇)、松本錦四郎(沖田総司)、天知茂(土方歳三)、藤村志保(毛利志満)、藤原礼子(お梅)、近藤美恵子(深雪太夫)、毛利郁子(小栄)、小林勝彦(谷三十郎)、島田竜三(古高俊太郎)、成田純一郎(楠小十郎)
惹句 『男が惚れた男の誠若き血潮が火と燃えて、新選組は今日も行く

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 ことしの春『座頭市物語』で大映入りした天知茂は、いまでは大映のわき役スタッフとして貴重な存在で、中泉京都撮影所長からも「なくてはならぬ人だ」といわれるほどになった。その天知はいま、『新選組始末記』(三隅研次監督)で土方歳三にふんし、持ち味をフルに生かして、冷血漢ぶりをみせている。

 ふだん口かずの少ない彼が、「ものすごく才気走った土方を表現できたら成功」と熱っぽいほどのはりきりよう。『座頭市物語』で平手造酒をやって以来のカゲのある浪人がつづいているからだ。

 「いままでの新選組では、土方はつけ足しだったが、この『新選組始末記』は史実にもとづいて、土方の存在価値を大きく認めている点が気にいった。土方はもとはやさしい男だったが、新選組にはいってからは、尊大な態度になってきた。腕は立つ、頭はすこぶるいい、そしてああいう社会で新選組を守ってゆくには、非情で冷徹にならざるをえなかった。ボクとしてはやはりいい役だと思っている」

 セットでは芹沢鴨暗殺事件、池田屋事件、スパイの拷問など、三隅リアリズムに乗って天知の冷酷ぶりが遺憾なく発揮されている。

 「やりがいのある役だが、ボク自身の役柄がマンネリになりかかっている。動きが少なくて冷たいんだナ」と自己反省も忘れていない。(西スポ 12/03/62)

[ 解 説 ]

 『新選組始末記』は子母沢寛の出世作であり、最近再版された中央公論社版が、いまベストセラーにランクされている名作。しかもテレビに劇に一種のブームを起こしているものですが、今回の大映映画においては、新選組勃興期のエネルギッシュな面をとらえ、幕末の混乱期に生きぬこうとした若い群像を、リアルなスタイルで描こうとするものです。

 脚本は現代劇畑の星川清司がはじめて時代劇の筆を取った、清新で緻密な力作、演出は大映切っての本格派三隅研次監督で、撮影は名手本多省三です。配役は市川雷蔵の若き新選組隊士山崎烝、藤村志保のその恋人、城健三朗の局長近藤勇、天知茂の副長土方歳三、松本錦四郎の沖田総司、小林勝彦の谷三十郎、成田純一郎の楠小十郎らをはじめ、近藤美恵子、藤原礼子、毛利郁子、らの女優陣、田崎潤、島田竜三、丹羽又三郎、中村豊、矢島陽太郎、高見国一、千葉敏郎、伊達三郎、堂本寛、石黒達也、須賀不二男ら以下大映時代劇陣総出演になる若さ溢れる男性篇です。

 武士らしい武士の少なくなった幕末時代、武士出身の純粋な若者山崎が、その理想像を新選組の近藤勇に見出し、自分もつ唯一の特技であるところの剣を以て、人を殺すことによって、自分が生き残る努力をする。しかし、新選組内部の複雑な人間関係というカベにぶつかった蒸は、苦難の末ついにそのカベをつきやぶるというテーマです。その背後に芹沢鴨暗殺、古高捕縛、池田屋斬込みという史上有名な事件が、生々しく描かれ、人を殺すことによってのみ栄えた新選組の、やがて来るべき運命も暗示されます。

 人殺し稼業ともいうべき新選組をいたずらに詠嘆調に流れず、客観的に見つめるものですが、全篇にみちた若々しいエネルギーが、剣となって火花を散らす凄烈さは、深く掘下げた人間像、ガッチリ組まれたドラマと相まって、正月映画中でも最も見ごたえのある作品となることが期待されます。( 公開当時のプレスシートより )

 

 

[ 略 筋 ]

 親子二代の浪人山崎烝は、医学を志す恋人志満の反対にも拘わらず、剣を男の生きる道として、当時京都で血なまぐさい活動を起こし始めていた壬生の新選組へ入った。そこには彼が惚れ込んだ、武士らしい男、近藤勇がいたからである。だが、新選組局長芹沢鴨は、とかく粗暴の振舞いが多く、京の町民から恐れられており、隊の名誉のため苦言する近藤らはとかく無視されがちである。近藤の同志の土方歳三は、この局面打破のために、まず芹沢の腹心新見錦を、隊規を楯に有無をいわせず切腹させ、芹沢一派の機先を制したが、更に一夜、局長室に愛人たちと共に泥酔して寝込んだ芹沢らを、みずから沖田総司以下四人で襲って斬殺した。

 入隊早々、三条河原で浪士四人を斬って、いよいよ奮い立っていた烝も、この堂々としない土方の策謀に反発し、これを黙認する近藤をもなじった。近藤は烝の言葉を認めながらも彼の若さをなだめた。土方は冷たくそれを無視しながらも、やがて烝の純粋さを知って危険視するようになる。かくて新編成のもとに、近藤が局長、土方が副局長におさまり、新選組は新しい入隊者を迎えて、日毎にふくれ上がって行ったが、烝の心は何か満たされないものがあった。だが、彼の心を深く読みとる志満が、それを近藤に対する失望だといいきると、あわてて近藤の弁護をする烝でもあった。一夜鴨川辺の茶屋で、烝は志満の目前に、乱入してきた一人の浪士を斬った。そして、激しい錯乱に襲われた志満を、血だらけの手で狂おしく抱いた。

 近藤に期待を裏切られ、土方に白眼視され、沖田の疑いを知らぬ生き方にもついて行けない烝は、ある夜誤って、心ならずも公儀役人を路上に斬った、だが、彼を愛する近藤は切腹を主張しようとする土方の先手を打って、烝を表面は逃亡の形で、改めて勤王浪士動静の探偵方を命じた。近藤は、烝に新しい使命に服するか、本当に脱走するか、その自由意志にまかせたのだ。烝は百姓上りの少年隊士彦平を助手に、さまざまの変装をして、三条小橋の旅館池田屋に集まる勤王方浪士の動きを探知し、時には土佐の人斬り久蔵に追われて負傷することさえもあった。烝の傷の手当てをする志満は、彼が永久に自分の許へ帰ってきたようなよろこびを感じ、この幸福にしがみつこうとした。

 折りから池田屋に集まる諸国の浪士たちは、六月六日の祇園祭を期して、京都を焼き払って幕府の重臣を斬り、天皇を奪取するという不穏の企てを樹てていたが、幕府方ではまだ確たる証拠を握れず焦慮していた。

 烝は祇園ばやしの音を聞くうちに、勤王派陰謀決行の日の迫ったことを思い出し、近藤の信義にこたえるべく、ふたたび志満の家を抜け出して、祭で賑わう京の街を探り歩いた。そして勤王方の黒幕古高俊太郎のかくれ家を発見した。新選組に捕らえられた古高は、土方の残酷な拷問にたえかね、大規模な陰謀のことごとくを白状し、その前夜の浪士たちの集合場所は三条縄手の四国屋だといった。時を同じくして、彦平が屯所へ届けてきた烝の情報は、四国屋でなく池田屋だった。

 折りから新選組は間謀の謀略で毒にあてられて隊士の大半は倒れており、出勤できる者は、全員わずかに二十七名。応援を頼んだ会津藩は一向に動かず、時は刻々にすぎて行く。土方は飽くまで烝の情報に疑いを抱き、全員四国屋を襲撃することを主張したが、近藤は烝に賭け、沖田以下わずか六名の精鋭をすぐって決死の覚悟で池田屋へ向かった。その頃烝は助手の彦平が久蔵に捕まり、池田屋へ引きずり込まれるのを見て愕然、たちまち池田屋へ飛び込んだが、彦平を斬ってまだ血に飽き足らぬ久蔵は、猛然と烝に飛びかかった。時しも近藤以下決死の六人が池田屋へ到着、三十余名に上る浪士たちに凄烈な血戦の火蓋を切った。そして、浪士たちの必死の反撃に新選組は負傷者続出、一時は苦戦におちいったが、誰もいない四国屋から引返して来た土方隊の応援に形勢はたちまちにして逆転して、激闘二時間、遂に勝利は新選組に帰した。

 かくて土方は烝の功労と近藤の信義に潔くカブトを脱ぎ、沖田も烝に握手を求めた。夏の夜明け、血だらけの姿で新選組の引揚げを開始した近藤は、ようやくそこに会津の物々しい軍勢の出勤に会ったが、勝利の裏に苦々しいものがあった。烝の安否を気ずかって駆けつけた志満と、隊列の中の烝との視線が合った。だが、二人をつなぐきずなはもう絶ち切られていたのだ。志満は涙いっぱいの眼で、遠ざかる新選組から踵を返すのだった。( 公開当時のプレスシートより )

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 彰義隊残党の祖父の影響を強く受けた子母沢寛は、聞き書きによる「新選組始末記」を昭和三年に発表し、高い評価を得、その後の新選組を主題とする作品の底本となった。他に「新選組遺聞」(昭和四年)「新選組物語」(昭和六年)いわゆる「新選組」三部作は中公文庫で読める。

 新選組は「天狗」と対抗する仇役として登場するが、昭和三年子母沢寛が「新選組始末記」を発表し、その実体が見えて来ると、伊藤大輔は大河内伝次郎を近藤勇に「興亡新選組」(昭和五)を撮るのである。本格的歴史映画の骨格を持つこの作品は、子供と勇の交情を描きながら、歴史の流れに翻弄され、滅びると知りつつ、時代に殉ずる男達の感傷を唱い上げて見事であったという。

 稲垣浩も、盟友三村伸太郎の脚本により同じ大河内で、「新選組」を昭和九年に撮る。この撮影の折、大河内は常に小刀に本身を入れて腰に差したという。武士として軽々しい芝居をしてはならぬという心情からであった。池田屋の乱闘で小刀が抜けて大河内自身の右手を傷つけたが、「不覚 !!」と一言云って、撮影は中止しなかったという。

 戦後、司馬遼太郎の「燃えよ剣」「新選組血風録」などで、新選組の一人、一人の姿がクローズアップされ、「天狗」よりも、より人間的に、幕末を生きた夢多き青春群像として見直された。そして市川雷蔵は、三隅研次監督の「新選組始末記」で、幕末を生きながら現代に通ずる若者の姿を見事に演じきった。( 高瀬昌弘 )

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