忍びの者 伊賀屋敷

1965年6月12日(土)公開/1時間29分大映京都/白黒シネマスコープ

併映:「狸穴町0番地」(木村恵吾/高田美和・花菱アチャコ)

製作  
企画 伊藤武郎
監督 森一生
脚本 直居欽哉・服部佳
撮影 今井ひろし
美術 太田誠一
照明 伊藤貞一
録音 林土太郎
音楽 渡辺宙明
助監督 大洲斉
スチール 三浦康寛
出演 八千草薫(百合姫・お蘭)、山形勲(松平伊豆守)、鈴木瑞穂(由比正雪)、今井健二(丸橋忠弥)、島田竜三(井伊掃部守)、北竜二(徳川頼宣)、殿山泰司(甲賀幻心斉)、伊達三郎(金井半兵衛)、水原浩一(石谷将監)、南条新太郎(安部豊後守)
惹句 『忍者が流した血は忍者の血でぬぐう歴史の裏側で暗躍する伊賀と甲賀の凄惨な死闘』『醜い死人の顔をあはげば、美しい女忍者が生き返るあくなき執念と恐るべき秘術

▽大映が娯楽映画の決定版として製作を続ける市川雷蔵の<忍びの者シリーズ>は、この「忍びの者・伊賀屋敷」で六本目。今回は、いわゆる由比正雪の慶安の変を中心に、甲賀忍者を操る知恵者の老中松平伊豆守と霧隠才蔵が対決する。ストーリーの展開に仕組まれた意外性と、甲賀忍者対伊賀忍者の死斗に盛られたアイデアは、これまでに勝るとも劣らぬ痛快味を発揮している。

▽徳川幕府転覆を謀った慶安の変の前夜、江戸は由比正雪、丸橋忠弥ら浪人たちの道場を中心に、松平伊豆守が放った甲賀忍者が暗躍していた。そこに突如、白煙をあげて立ち塞がったのは霧隠才蔵だった。彼こそは十余年前に島原の乱で父霧隠才蔵を失い、その意志を継いで、あくなき復讐の念に燃える霧隠才蔵の二世だった。正雪一派に紀伊六十五万石徳川頼宣、加えて倒幕に挑む才蔵の前に、甲賀忍者の女首領お蘭、そして、真田幸村の遺児百合姫が現われて意外な結末を招く。才蔵の策略が勝か、伊豆守の策略が勝つか、興味は満点である。

▽出演者は、霧隠才蔵に市川雷蔵がおなじみの忍者ルックで活躍、甲賀忍者の女宰領お蘭と百合姫に、大映京都に七年ぶりの出演をする八千草薫、松平伊豆守には山形勲。由比正雪に民芸の鈴木瑞穂、丸橋忠弥に東映を離れてフリーになった今井健二がそれぞれ大映初出演する。さらに、島田竜三、北竜二、伊達三郎、香川良介らベテランが脇を固めている。

▽スタッフは、このシリーズ二度目の森一生監督を始め、企画伊藤武郎、撮影今井ひろし、録音林土太郎、美術伊藤貞一、編集谷口登司夫、助監督は大洲斉とレギュラーが担当。脚本はこのシリーズを初めて手掛ける直居欽哉、服部佳である。(公開当時のプレスシートより)

まえがき■直居欽哉

豊臣氏が滅亡した元和元年の大阪夏の陣から、寛永十四年の天草切支丹一揆まで二十三年、更に慶安四年の由比正雪事件に至るまで三十六年の歳月を経ている。

仮りに、霧隠才蔵を夏の陣当時二十才としても、この映画の主人公としては不似合である。忍びの者シリーズとしては、歴史的事実を背景としている関係上、今回も由比正雪事件という事実の中に、フィクションの人物、霧隠才蔵をどう織り込むかという点に於いて非常に苦労した。

先ず、二代目才蔵として年令を合せ、才蔵の考え方を、自由を求める忍者として扱ったこと、武力より知略に重点を置いたこと等、政治は忍法なりという仮設の下にテーマを描いてみようと考えた。

ストーリーを構成するに当って、慶安事件の資料を読み漁ったが、いずれも歴史上に於ける謀叛人の検挙記録であり、特に紀州家の問題に関しては推理資料にとどまっている。

これは恐らく、幕府の手で具体的な裏面事実を隠蔽し、抹殺したのであろうと思われるが、むしろ興味の中心はここにあり、徳川一門の複雑な内部事情と、戦国武力政治から謀略的権力政治に移り変わる必然性を解明する途でもある。

幕閣首脳部の一人として活躍する老中松平伊豆守は、優れた新官僚として、その智謀や人物像に興味深いものがある。

謀叛の首謀者由比正雪が、実は伊豆守と内通していたという設定は創作であるが、必ずしも、事実無根とばかりいえないのではないか。現に、正雪の門弟である奥村七郎右衛門兄弟の長兄奥村進之丞は伊豆守の側臣である。とにかく、今も昔も政治の実態は変わらない。第一稿に於ては、その面白さにひきづられ霧隠才蔵がやや観念的にしか描かれてなかったが、決定稿までに直してゆくつもりである。

時代劇と現代劇は、ドラマを構成し、人物を描くことに於ては、いささかの相異もないと考えている。セリフ、動作、コスチューム等の表現方法が異なるだけで、三百年前の人間も今の人間も本質に於ては変りはない。

伊豆守の如き官僚、頼宣の如き実業家、正雪の如き貧困の中から這上った二重人格的野心家は現在も我々の周囲に存在している。歴史上の諸人物を現代的視点で解明し、描き出すことによって、歴史的事件は単なる過去ではなく、我々の現在に密接するものとなり、そこに時代劇の面白さと楽しさがあるのではないだろうか。

共同執筆者の服部さんは、日活のスクリプター出身であるが、女性には珍らしくバイタリティのある人で、説得力のあるセリフが巧く、歴史見詰める鋭い個性は、そのまま現代の虚構に挑む迫力がある。今後の発展を期待する。(シナリオ、1965年6月号より)   

詳細は、シリーズ映画「忍びの者シリーズ」参照。

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