この「一ノ谷物語〜琴魂〜」四幕は作・石原慎太郎、演出・武智鉄二、作曲・武満徹、振付・川口秀子という顔ぶれで、最も今日的な歌舞伎の創造という点が、注目すべきことで、期待にそむかぬすばらしい新作となっている。

 題材は、源平の一ノ谷合戦において、源氏の熊谷次郎直実に討ちとられた平家の若太郎四郎敦盛の精霊と、彼を慕う直実の孫娘萩明との幽明界を異にしながらも、お互いに笛と琴で心を通わせている、悲しくも美しい恋の絵巻をくりひろげるという、幻想の世界に歌舞伎の様式美をとり入れ、現代人が素直に見られるような心配りがしてある。

 出演する人たちは、敦盛を市川雷蔵、萩明に中村扇雀がそれぞれ扮し、妖しいまでの美しさあふれるコンビに、市川猿之助、川口秀子、市川団子、沢村由次郎、観世栄夫、茂山七五三、茂山千之丞ら、日生劇場初の歌舞伎にふさわしい絢爛たる顔ぶれ。