大映京都の本年度芸術祭参加作品『忠直卿行状記』が、森一生監督のメガホンで撮影を開始した。『大菩薩峠』につづく大作の主演で市川雷蔵は大いに気をよくしているが、とくに映画入りいらい念願の作品とあって、そのハリキリ方は大へんなもの。

 「まだカブキにいたころ、つくし会という私たちの研究会の中で、演劇台本になったものをはじめて読んで、大そう感銘をうけたことを今でもおぼえています」という雷蔵だが、間もなく映画入りした彼は、会社にくり返し映画化を申し出ていた。

 このたびの映画化について雷蔵は、「このまえ勝新太郎クンがやった『不知火検校』と同様に、これは当世流行のヌーベル・バーグの映画を見なれた観客が、主人公の異常とも思われるかずかずの行動を、大した抵抗もなく受け取ってくれるでしょう。わたしとしても六年間待ったかいがありました」と、さすがによろこびをかくせない。

 越前六十七万石の藩主松平忠直卿が、部下のついしょうに気づいて、暗い懐疑の念におそわれて以来、まるで別人のような暴君に一変する。それが、忠臣与四郎夫婦により、求めていた人生の真実をはじめて知らされるものの、最後は大名の地位を奪われるという菊池寛の同名原作から八尋不二が脚色したもので、おもなキャストは、雷蔵のほか、小林勝彦、山内敬子、丹羽又三郎、林成年、浦路洋子、中村鴈治郎、水谷八重子、三津田健(文学座)といった多彩なキャストが組まれている。

 森監督は、「時代劇には珍しく心理的な要素のあるもので、大へんむずかしいが、やはり手ごたえのある作品です。主人公の悩みを若い映画層にどのように訴えて行くかにカギがあると思いますが、シェークスピア劇のような味をねらって、雷蔵クンのセリフも加えてみました」とのこと。

(サンスポ・大阪版10/20/60)