この映画は、文豪菊地寛の不朽の名作と称せられるものの映画化で、八尋不二が脚色、監督森一生、主演市川雷蔵により、芸術祭参加作品として贈られる文芸時代劇。

 配役は市川雷蔵の忠直卿に加え、小林勝彦、山内敬子が初顔合せするほか、丹羽又三郎、林成年、浦路洋子、藤原礼子、三田登喜子、中村鴈治郎、水谷八重子、千葉敏郎、加茂良子ほか豪華な顔ぶれがずらりと揃っている。

 家康の孫と生まれ、大坂夏の陣で武勲をたてた越前六十七万石の藩主松平忠直卿は、名君の誉れ高くとくに武勇を愛好し、城下でも並ぶものがないほどの腕前であったが、ふとしたことから、それが家臣たちの追従であることを知り、愕然となり失意のどん底に堕ちて行った。

 翌日からの忠直は、まるで別人のように暴虐な振舞いが続いた。真槍で試合を挑んだり、酒乱に耽り、人妻を犯し、どの女もこの女も、何ら抵抗をみせず、その腕に抱かれようとする姿を見て、ますます焦慮にかられた彼は、更に、諫言する家臣を斬り棄てるなど別人のような乱行が続き、狂乱の暴君とののしられるが、これは不信に包まれた忠直が、人生の真実を求めてさまよう悲痛な苦悩の姿である。親友与四郎の妻志津までも抱きすくめ様とする忠直、カンザシを逆手にもって拒み続け、かけつけた与四郎も短剣を抜き、殿を殿とも思わぬ夫婦の姿に接し、はじめて我にかえることが出来たのである。しかし、時すでに遅く、六十七万石の若き大名の地位を去らねばならぬときであった。