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○・・・大映京都が、七月のお盆映画としてクランクしている伊藤大輔監督、市川雷蔵主演の『ジャン有馬の襲撃』はいよいよ大詰めに入り、このほど、大津市膳所北大路町琵琶湖湖岸でポルトガル船襲撃のスペクタクル・シーンを撮った。これは三百五十年前、長崎のキリシタン大名有馬晴信(雷蔵)が自分の持船の水夫たちが、国旗侮辱のぬれ衣をきせられてポルトガル船の船長らに虐殺されたのを怒り、長崎に入港したこのポルトガル船に復讐するという、日本史上初の外国船焼打ち事件を映画化したもの。

○・・・この日のロケは、夕暮れの琵琶湖岸を夜明けの長崎港にたとえ、全長百メートルのポルトガル船の船首三分の一(約四十メートル)だけを座礁の想定でつくり、これに晴信の率いる和船やヤグラ船など数十隻が、朝モヤをついて切込みをかけ、ついに撃破するというシーン。

 ポルトガル船は幅十二メートル、高さ(吃水線から舷側まで)六メートル、帆柱三十メートル(二本)の巨大な黒船。五門の大砲を五、六十名のポルトガル軍が一斉に発砲すれば、黒船をあやつる百五十人の晴信の家来たちが、刀をふりかざしてポルトガル船におどりかかるという趣向。海上二台、船の帆柱上一台の各カメラで同時にキャッチするわけだが、まさに三百五十年前の歴史の中に建たされたような錯覚だ。

 伊藤監督は海上のカメラに陣取っていたが、「なにせ陸上とちがって船をあやつりながらのロケだし、朝モヤに使うスモークもちょっと風向きが変ると、とんでもない方に流れるので、人間の意志以外の条件を備えるだけでも一苦労です」と眼を血走らせ、話しながらもつねに和船の位置とスモークの流れに気を配る始末だった。

○・・・カットが変わると、熱血の青年大名晴信の登場。天草四郎をモデルにしたといわれる晴信は、和船の先頭に立って白刃を握り、全軍叱咤の怒号と共にポルトガル船に襲いかかる。

 雷蔵は、「ついに襲撃を決行した晴信のはげしさを、この切込みで存分に出したい」とリンとした声を湖上に響かせ、さっそうと大立回りを展開し、湖岸にぎっしりと立ったヤジ馬やボートで湖上から見物する人々からヤンヤの喝采をうけた。

 

日スポ・東京 07/01/59