撮影中の大映『弁天小僧』(伊藤大輔監督)で時代劇には珍しい接吻シーンが登場、演ずるのが市川雷蔵と東宝から特別出演中の青山京子というので話題になりそう。

 このシーンは台本にもなく、その日になって伊藤監督の演出で急にそういう次第になったもの。弁天小僧(雷蔵)とお半(青山)が御用提灯に追われて逃げる。いまは互いに別れがたい思慕を抱いている二人、大川端で別れようとして泣きすがるお半を、弁天は思わず抱きしめて唇を合わせる。しかし、彼は自分がお半を幸福にできるようなまっとうな人間でないことを知るゆえに、気強くもお半を振切って駈け去ってしまう・・・。

 接吻シーンははじめての雷蔵は、「そうテレることもないじゃろう」と伊藤監督にいわれて「大丈夫です。『浮舟』では山本富士子さんの首すじをナメまわった経験がありますから」といっていたが、本番になるとやっぱりアガッたのか、相手の青山の方が平気な顔。それもそのはずで『続・思春期』『くちづけ』『飛出した若旦那』ともう三本も接吻シーンは経験ずみで、はるかに大先輩というわけだ。

 「雷蔵君は眼をあいて、青山君は眼をつむって・・・」と伊藤監督もすっかり若返っての演出ぶり、素材は歌舞伎ものだが、弁天小僧の性格も現代のチンピラやくざに通じるような新しさが工夫されているようだ。

(スポーツ ニッポン大阪版 11/12/58 )

  

 大映京都で完成した伊藤大輔監督の『弁天小僧』は、同監督久々の娯楽時代劇で、『炎上』ですっかり男をあげた市川雷蔵を使って、どのような時代劇の醍醐味を味あわせてくれるか楽しみだ。

 伊藤監督は昨年ビスタビジョンで『地獄花』を撮ったが、スコープ作品は今度が初めてで、名手宮川一夫キャメラマンと組んで得意の移動撮影(伊藤大輔をもじって、“移動大好き”というニックネームのあるのは天下衆知のところ)に、いろいろ珍しい画面構成を使っている。

 得意といえば、この映画では、伊藤大輔十八番の大捕物シーンが出てくるのも楽しみの一つで、ラストシーンでは捕手に四百人のエキストラを使って、戦後空前の、大がかりな捕物撮影を見せてくれる。

 この写真は、京都撮影所で一番大きい400坪A2ステージ一杯に組まれた船宿裏二階のセットで、地面の上に、じかに二階屋根を組んで、三日にわたって猛撮影を展開した。

 主演の市川雷蔵のほか、青山京子、勝新太郎、阿井美千子、近藤美恵子、黒川弥太郎、田崎潤、舟木洋一、島田竜三、中村鴈治郎らが共演するという賑やかな顔ぶれで、伊藤監督も「理屈なしに楽しめる時代劇にしたい」と、ケレン味たっぷりの演出を、終始楽しそうに続けていた。

 

(スポーツ ニッポン大阪版 11/14/58 )