伊藤監督久々のメガホンで撮影中だった大映スコープ総天然色『弁天小僧』(市川雷蔵、勝新太郎、青山京子、阿井美千子、近藤美恵子、島田竜三、黒川弥太郎、田崎潤、中村鴈治郎出演)は、撮影開始後四十日、このほど西オープン三千坪の大セットでのラストシーンの捕物撮影を最後にクランクを終了した。
この日の撮影は、折からの曇り空で、ナイトシーンには絶好のコンディション。午後二時から準備に入って、午後四時半無事撮影を終ったが、動員したエキストラ四百人、大屋根の上に捕方がのぼるので西オープンのセットは全部本カワラでふき、御用提灯に火入れの効果を出す効果係をはじめ大道具、小道具、助監督らもテンヤワンヤの騒ぎ。カメラは先ごろ、『日蓮と蒙古大襲来』で作った特殊撮影用のマンモスプールの高さ5.5メートルの大ホリゾントの上に上って、これをフカン撮影するわけで、シネマスコープの画面にはいかにもふさわしい大撮影だ。捕物の撮影は伊藤監督の独壇場だが、戦後、これほど大がかりな捕物撮影は初めてのことで、これに先立つ十日ほど前から、連日の捕物撮影に動員された捕方の延べ人員は二千名に達した。
御用提灯の灯は、電池を使うのだが、こう数が多くては一人々々別々に電池を持たしていたのでは大変なので、五十人ぐらいずつの御用提灯を全部コードでつないで、スイッチ一つで点火するという能率操作ぶり。伊藤監督は、さすが年がら、ホリゾントの上までは上らず、地上からの指揮で残念そうだった。
オープンセットの中央部に作られた船宿の裏二階、物干にいる弁天小僧(市川雷蔵)をめがけて、堀へハシゴをかけわたし、屋根々々をうずめて四百人の捕方が殺到する。『弁天小僧』は「理屈なしに面白く見られる時代劇にしたい」という伊藤監督の抱負通り、久々でケレン味たっぷりの伊藤監督らしい興味津々の作品になるだろうと期待される。
なお、同夜タイトルバックの撮影が行われたが、芝居がかりの音楽で運ぶため、題名のバックには定式幕を使用、以下スタッフ、キャストのタイトルバックには江戸時代の三枚つづきの役者絵がちょうどスコープの型にピッタリのところから、某収集家のコレクションから厳選した実物の役者絵を、そのままバックに使用するという懲り方だった。
▼十二月三週ともなれば、映画館の入りはますます低調になってくる。こういうときはどんな作品を出しても効果は出てこないものだ。従って、作品の方も平凡なプログラムピクチャアぞろいということになる。
▼邦画で注目されたのは大映伊藤大輔監督の『弁天小僧』で、十三日初日だったが、好調というべきである。巨匠伊藤大輔が一年半ぶりにメガホンを取った映画が、大衆のカッサイを得たことは映画界のためにも喜ばしい。
日曜、梅田大映が四千人を越え、アシベも四千人に近く、今の時期としてはほめられるべきもので、封切のタイミングがよかったらもっと伸びていただろう。むろん今週のトップである。
松竹はこのところずっと日曜初日で今週は大船調メロドラマを京都で扱った『花は嘆かず』だが、これは新味に乏しく、日曜のしかも初日で二千人を越えたのはわずかに浪花座一館という寂しさ。これなどは添え物で連続して上映すべきで、三部作同時では吸引力もないし、腹にもたれる。
▼東映『紅鶴屋敷』は割合いよく、ある館では大映を抜いているところもある。東映はシーズンにあまり関係ないのが強味だが、これは東映観客層の年齢が低いからである。
東宝の『弥次喜多道中双六』は期待に反した成績。春のシーズンにヒットしたものだが、年末向きのものではない。
日活『危険な年齢』も普通の成績で、結局平凡な週間ということになる。
実演劇場では北野の「蝶々・雄二の名探偵」が好況で、日曜五千人を入れているが、大劇の「サンタクロース」は不振である。
▼一方洋画の方も大したものはなく、S・Y系は『手錠のままの脱獄』が正月封切になったのでピンチ・ヒッターで『晩鐘』が登場したが、スターバリューがないのでこの宮廷悲恋ものは、見事な三振というところである。『風は知らない』も、日本女性と英国軍人の悲恋ものだが、谷洋子では日本の観客に通じないから、これもあまりよいとはいえないが、見方によってはよく来たともいえる。ともかく松竹座は三千人台を記録した。OSのシネラマはしばらく不振だったが、日曜は三千五百人と好調だった。
(デイリースポーツ大阪版
12/18/58 )
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