昼さがりの撮影所はウソのようにのんびりとしています。『日蓮と蒙古大襲来』という超台風が吹きまくって、笑いがとまらないといった大映撮影所は、そのなごりでもないでしょうが、題名を染めぬいたビニールの大提灯が、ブラリブラリ、正門横の守衛室に吊下げられています。宣伝課へ顔を出すと、ここにも天井から大提灯です。これをみてもいかに力をいれたかがわかります。
そんなわけで台風一過、本日の撮影は、雷蔵さんの『弁天小僧』に、勝新太郎さん主演の『血文字船』、それから『赤胴鈴之助』の三組です。
中庭にあるグランプリの銅像を前をブラリブラリ歩いていると、若衆まげの色っぽい小姓さんが、美しく着かざった女優さんとやってきました。なんとこれが市川雷蔵さんに青山京子さんです。
「珍しいですね、京子ちゃん」
「あーら、しばらく」
ちょうどいいところとばかり、さっそくスナップをパチリ。
雷蔵さんの相手役、お半で初コンビをつくる京子ちゃんは、京都で仕事をするのははじめてなので、ちょっぴり心細そうです。
「きれいな人やな、青山さんは」
「お上手ね、雷蔵さんは」
こんどの『弁天小僧』で五十本目を迎える雷蔵さんは、念願の伊藤大輔監督のメガホンとあって大ハリキリ。『濡れ髪剣法』の追い込みの疲れもみせず、明るい表情です。
前作では八千草さんと、こんどは青山さんと、つづけて二本新コンビをつくる当の雷蔵さん、
「ボクはそんなに浮気者やないんや!」
仕事ですものネ。
お二人にわかれて、ステージの方へ行きますと、
「手をあげろ!」
ドスのきいた声です。思わずギョッとなる記者の背後に、勝ちゃんのいかめしい二挺拳銃が不気味に向けられています。
「なアーんだ、オドカさないで下さいよ」
いたずらっぽく笑う勝チャンの隣りには、小野道子さんと浦路洋子さんがいます。
「こんどの『血文字船』で、ピストルを使っているんでネ」
撮影所だから、こんなオフザケが笑い話になるわけですが・・・。
赤胴鈴之助の梅若正二さんが東京の慶応病院に入院中とて、『黒雲谷の雷人』は主人公の出ないシーンからクランク。近日中に入る長谷川一夫さん主演の『伊賀の水月』でスタジオは、裏方さんが忙しそうに立ちはたらいています。
『日蓮・・・』で陰の立役者となった、大特撮プールへ行ってみると、ツワモノどもの夢のあと。満々とたたえられた水の色は青く、さざ波だち、夏だったら、ドブンと飛びこみたくなることでしょう。この水を一度に排水すると、近所の下水はあふれだし、下水のフタが持ちあがって、ときならぬ浸水さわぎを起したそうですから、さすが、超台風だけのことはあります。
それではグランプリの像に別れをつげて、次は松竹へ行きましょう。
(ファンお手製の切抜帖から) |