※・・・伊藤監督は関西歌舞伎の坂東蓑助と親しく、その関係で雷蔵が武智歌舞伎で勉強していたころから見知っていたという。例の“浜松屋”のシーンも、舞台ソックリの演出で見せる模様で、伊藤監督の狙いもやはり歌舞伎の雷蔵を映画で生かすことにあるよう、期せずして一つとなっての、いよいよの快調のクランクがはじめられた。

(ファンお手製の切抜帖から)

 

市川寿海が息子を激励 『弁天小僧』

浜松屋の場も指導

雷蔵の真似は出来ないと ニッコリ

 目下、大映京都で撮影中の大映スコープ・カラー『弁天小僧』(伊藤大輔監督)は、黙阿弥の原作とははなれて自由に脚色、構成したものだが、有名な浜松屋のシーンだけは舞台そのまま取り入れられるので、同シーンの指導を歌舞伎界から求めていた。

 これを聞いた弁天小僧にふんする市川雷蔵の父関西歌舞伎の重鎮市川寿海が、息子の激励かたがた、その指導をこころよく承諾。

 寿海は浜松屋シーンの指導に当って「あくまでも映画の一部としてはめこまれる舞台のシーンですから、伊藤監督とも相談し、歌舞伎のキマリだけを残して、あとは極力映画的に刈込みます。映画の撮影は雷蔵の出た『新・平家物語』とこんどのと二度見ましたが、わずか何秒の場面に一時間もかかったりして大変ですね。とても息子の真似などできません」と老顔をほころばせていた。

(ファンお手製の切抜帖から)