このところめきめきと頭角を現わしてきた大映京都の中村玉緒が、このほど、かねてウワサが伝えられている市川雷蔵、勝新太郎の二人を相手に、たてつづけに悩ましいラブシーンを演じて、お熱い話題を流した。

 雷蔵 とのラブシーンは『切られ与三郎』(監督伊藤大輔)で、彼女の役は、ほれたとみせかけて最後に与三郎(雷蔵)をおとしいれる旅芸人の悪女。彼女にとって悪女役は初めての経験だが、前半はほとんど悪女のそぶりもみせず、雷蔵との愛のささやきにうつつをぬかす。お富(淡路恵子)と逢瀬を重ねたばかりに、顔中キズだらけにされて海中へほうりこまれた雷蔵が、旅芸人一座のうちの玉緒と結びつく。

 この 日の撮影は、そんなある日、玉緒に誘われるまま雷蔵が彼女を抱くシーン。二十一歳になったという彼女だが、ここ半年ばかりの間に驚くほどおとなびて「二、三年前の玉緒ちゃんを想い出すとウソみたい」と雷蔵がボヤくほど。玉緒がほおを寄せると、思いなしか雷蔵の表情に緊張の色が走る。伊藤監督の入念なメガホンが執拗に二人の演技に注文を出すが、玉緒は終始大胆な演技で、雷蔵を圧倒していた。

 片方 の勝新太郎とは『源太郎船』(監督渡辺邦男)で数シーンにわたりラブ・シーンをくりひろげる。悪番頭(伊沢一郎)に追われて大店丸屋を出た番頭源吉(勝)をしたって、家を飛び出すその丸屋のひとり娘お浜が彼女の役。純愛をささげる源吉の恋女房だが、源吉が三宅島に島流しにされたことから波乱の人生を歩み、源吉がのち源太郎と名乗り、武家社会の陰謀暴露をなしとげ、ようやく二人は結ばれる。

 この 日の撮影は、丸屋を飛び出した玉緒が、裏長屋に勝を訪れてひしと抱き合うシーン。かわいらしい町娘にふんした彼女は、一筋に思いをこめた勝の胸にしっかりとすがりつく。白いうなじがライトの光でまぶしい。抱きとめる勝は、この一作でこれまでの“二枚目半”的演技から脱却しようという意欲をみせてすさまじいファイト。しかし、かれんな玉緒の町娘には『切られ与三郎』でみせたあでやかさはなく、純愛に生きる女の“弱さ” “かなしさ”がにじみ出ていた。 (西スポ 06/04/60)