市川雷蔵は31年、8月29日生まれ。誕生の翌年に関西歌舞伎の俳優、市川九団次の養子になり、15歳で歌舞伎界にデビュー。19歳の時、再び関西歌舞伎の名門、市川寿海の養子となり、同年、八代目市川雷蔵を襲名する。しかし時代はまさに日本映画の黄金期で、53年に大映と契約を結ぶ。

 雷蔵が入った当時の大映は黒澤明監督の『羅生門』、溝口健二監督の『雨月物語』、衣笠貞之助監督の『地獄門』が海外の国際映画祭でグランプリを受賞するなど、非常にレベルの高い時代劇を製作していた。

 雷蔵は、16年間の俳優生活で150余本もの作品に出演しているが、中でも圧倒的な数を誇るのも時代劇だ。 デビューの頃は『花の白虎隊』や、溝口監督に厳しく指導された『新・平家物語』のように正統派の若侍やお殿様役が濃いけれど、次第に役柄が変化してくる。 『弁天小僧』や『安珍と清姫』、『好色一代男』のように歌舞伎出身の持ち味をいかしたものもあれば、『浮かれ三度笠』や『花の兄弟』のような髷物コメディもある。同じ時代劇でも、役に応じてガラリと顔が変わり、どんな役でも様になる。その芸域の広さは凄い。

 雷蔵は同時に、優れたプロデュース感覚を持ち、時代劇スターに安住することを嫌った。周囲の猛反対を押し切って三島由紀夫の小説「金閣寺」の映画化『炎上』に出演したり、島崎藤村の「破戒」や泉供花の「歌行燈」のような文芸ものの映画化にも積極的だった。