映画の黄金時代に名シリーズを生んだ

雷蔵の深く冷たい影

 雷蔵の活躍したプログラム・ピクチャーの時代では、次々公開される新作の中で、好評を得た作品だけがシリーズ化を許された。雷蔵はその特権を幾つも持つ数少ないスターだった。今回の映画祭では彼の晩年のシリーズ“眠狂四郎”全12作が公開されるのだから見逃せない。

 この作品は柴田錬三郎の原作を映画化したもので、舞台は徳川将軍家斉の時代。狂四郎は、転びバテレンのオランダ神父が幕府大目付役の娘を犯して生まれた不義の混血児。妖剣円月殺法を操る、この素浪人を演じる雷蔵は怖いほど美しく、時には女性に見間違うばかりだ。だからか彼は女に厳しく、係わった女性の大半は虫けらのように犯され、殺される。

 雷蔵は狂四郎を含め、『斬る』や『薄桜記』など幸薄い人物に扮した時に、演技を越えた凄みを発散した。それは三人の母を持ち、謎に満ちた出生を抱えた彼の業のようなものと言う人もいるが、本当だろうか?ただひとつだけ言えるのは、同時期に活躍した三船敏郎、石原裕次郎、高倉健の誰もが持ちえない、雷蔵特有の深く冷たい影に魅入られると、もう誰も逃れられないということだ。