俳優は弱いものさ

 

 そういえば、こうした雷蔵さんの俳優観は数年前からあったといえる。

 「京都の青年部会の活動も、いよいよ目覚しくなりそうだよ」

 雷蔵さんが云った。青年部会とは、京都の各社若手スター六十数名が結成しているグループの名である。正確には、京都映画人協会青年部という名だ。

 「二、三日後に、例会があるんだけれど、その日の議題が、何と俳優会館をつくる件とあるんだ」スゴイダロといいたげな、嬉しそうな顔の雷蔵さんだった。

 「若手俳優だけの力で、会館をつくるの?」

 「というわけさ。それもミミッチイ夢なんか抱かないんだ。総工費一億、二億かかったって、来いといいたいね。五年計画になるか、もっと先のことになるか、それでもいい、着々と青年部の業績が上っていけば、それで結成した意味があるんだ」

 そして、雷蔵さんは椅子の背によりかかる様にそって、カラカラと笑った。鼻息の荒さに我ながら照れたのかも知れない。しかし、気持よさそうな笑い方だった。そして、

 「でも嬉しいんだ。希望はうんと大きく持つものさ。その方が楽しいもの」ポツンと云った。

 そう、その嬉しさは当事者になってみなければ解らないだろう。というのは、そもそもこの青年部を結成するのに先鞭をつけ、努力したのは雷蔵さんだったからである。他に東映の東千代之介さん、松竹の北上弥太郎さんもあったが。そして彼等三人が、初代幹事を努めたのだ。もう三年も前のことである。

 「初めの頃は集りも悪かったよ。たまの休日にはプライベイトに使いたいという気持は解るけど。会の意義も、はじめは他社を問わぬ俳優の親睦にあったんだ。それが我々の勉強にもなればというわけさ。でも次第に、会社側では六社協定をつくっている。その犠牲に高千穂さんや津川君がなっているとなると、僕等は僕等の力で、何とか方向を決めなければいけないという深刻な結びつきになった。俳優もいい事ばかりは続かないからね。弱い存在さ。でも、今では一同団結してるし、例会の出席率もいいよ。パーティや野球、資金カンパなどやって、今では百万円の資本までたまったもの」

 たんたんと語る雷蔵さんである。まさしく初代幹事にふさわしい落着きと弁舌さわやかさをもって━。