若衆姿の山本富士子

 

 大映の正月映画森一生監督の『人肌牡丹』が撮影に入っているが、早々から「輪島屋賭場」のセットで山本富士子が珍しく鉄火の姉御姿で登場。これも珍しい近藤美恵子の女やくざと、丁半の勝負を争うという風変りな撮影が行われた。

 この映画では、山本は義理の弟妹(とはいっても、加賀の藩主とその妹姫)の危機を救うために神出鬼没の七変化で活躍する。

 このセットでも山本の深雪は“緋牡丹のお雪”という旅鴉の女やくざに化けて、敵陣営の一翼を担う加賀藩、人入れ稼業の輪島屋の賭場に乗り込んで、盛んに勝ちまくり相手方へ回った近藤美恵子の女やくざ“待ち兼ねのお百”はサンザンの負けつづけに悔しがって、頭につけたカンザシまで同元へほうり出して、賭札に変えるという有様。

 何しろ、片やミスニッポン、片やミスユニバースの対戦というわけだが。

 「畜生・・・これで頼むよ」と近藤。「遠慮はぬきで張っておくんなさい。旅の女に負けたとあっては、御当所お旦那衆の顔にかかわりますよ」と山本は女だてらに、立膝で伝法口調をまくしたてるところはなかなか壮観。

 撮影はなおも続けられ、このお雪の身体と百両の賭金との勝負が好色な輪島屋の親分(東良之助)との間に行なわれることになり、お雪は片肌脱いで、燃えるような緋縮緬に牡丹に唐獅子の模様を描いた長襦袢を見せる。この勝負の壺が開けられようとした時、部屋の片すみから「待て」と声をかけて、サイコロのイカサマを見破るのが遊び人“十六夜源三”に扮した市川雷蔵。ここでたちまち賭場は修羅の巷と化してしまう。という初日から人気スター三人が顔を合せる賑やかな場面だった。 

(サンケイスポーツ 58年11月16日)