十一代目市川団十郎の当り狂言である。大仏次郎の歌舞伎脚本が原作。今川方の間者が暗躍し、反信長派を抱えた領内で、敵を欺くためにわざと傍若無人に振る舞う織田信長の胸中を、今川方の人質弥生だけが察する。後半は信長を諌めるために自害した平手政秀の息子たちとの確執を和解のドラマが主軸。
織田家に一族を滅ぼされ、復讐の機会を狙う侍女・小萩は脚本の八尋不二の創作したキャラクター。市川雷蔵演じる、外見の粗暴さと裏腹の繊細な心を持ち、周囲の無理解に反逆する若者としての鮮烈な信長像は、彼と同世代で、この作品の数年前に早逝したジェームス・ディーンのイメージと重なる(ともに1931年生)。
『薄桜記』(1959)や『ある殺し屋』(1967)といった傑作で知られる監督の森一生は、長回しをメインにした室内劇としてこの作品を演出。天井の低いセットや陰影を強調した照明による息詰まるような密室感と相まって、権謀術策渦巻くサスペンスフルな陰謀劇が立ち上がってくる。(第七回京都映画祭パンフレットより) |