信長の逢瀬は乱暴そのもの、雷蔵と金田一敦子 京都郊外のロケから

 

 ブルーリボン賞をはじめ三つの男優主演賞を獲得した大映時代劇のホープ市川雷蔵はいま『若き日の信長』(森一生監督)にかけて、来年は時代劇で演技賞を!とファイトを燃やしている。撮影はこの映画の見せ場である奈良、富士山麓での「桶狭間の戦」の合戦シーンを終え、いまセットでの追込みにハク車をかけている。青年信長にふんする雷蔵をめぐって色模様をつづる青山京子(東宝)、金田一敦子、それに大映初出演の市川染五郎らの話題や余話を集めてみた。

 弱肉強食の戦国時代の草創期、群雄割拠する中で、ついに天下統一の基礎をつくった織田信長の青年期から、今川義元を桶狭間に破るまでを描くこの映画は、大仏次郎が菊五郎劇団のために書き下ろした初の戯曲で、市川海老蔵が青年信長に扮し、二十七年十月初演した。さきに中村錦之助が信長役をやった東映の『織田信長』は山岡荘八の原作によるものだ。まず映画化に当って主演の雷蔵は、相手役として『弁天小僧』で共演した青山京子 と、『遊太郎巷談』で時代劇に初出演、雷蔵と初顔合せした金田一敦子を推薦した。青山京子は信長方に間者として入り込んだ濃艶な腰元、金田一敦子は人質として信長にあずけられた姫君の役だ。この二人が、信長を敵とねらいながら、しだいに信長に心を寄せるようになる。

 雷蔵が推薦したもう一人に、市川染五郎がいる。同じ梨園の関係者として懇請したものだ。たまたま染五郎は試験中(東京暁星高校二年)で富士裾野ロケでは、午前中に試験をすませ、その足で信長の お守役平手政秀(小沢栄太郎)の三男にふんする忙しさ。撮影の合間を見ては、あすの試験準備に血眼といった案配だった。