大仏次郎が菊五郎劇団のために書き下したはじめての戯曲を映画化したもの。八尋不二の脚本で、演出は森一生。舞台で海老蔵のやった信長を市川雷蔵が演じている。

 シキタリを嫌ってしたい放題のことをしている清洲城主織田信長は、家臣どもの反感を買っている。特に最近勢力を増した今川義元への関心から林佐渡守の親子、代々織田家に忠誠を誓う山口左馬之助は今川に寝返る画策をたて、左馬之助は娘弥生を織田家へ人質として渡すことによって表面をゴマ化しつつ、今川方の気をひいていた。野人信長はそれらのことを心中察しつつ、一人将来のことを考える。おりから信長の守役平手中務が彼のゆくすえを案ずるあまり自害して果てる・・・。

 こうして信長の心を去来する青春の志が、ついに桶狭間の戦いとなって爆発するまでを描いている。佐渡や美作の裏切りが単なる悪玉としてしか描けていなかったり、密偵小萩の扱い方が少し思わせぶりにすぎたりする欠点はあるが、信長の野性的な気質、━戦国時代の武将らしい不遜な性格と若々しい野望がよく描き出されていて、ちょっとした佳品になった。

 それには何よりも雷蔵の凛とした演技がものをいう。守役平手の自害を聞いて駆けつけ、慟哭しながら衷情を訴える長いカットなどにも、しっかりとその性格を伝えている。性根のすわった演技といえるだろう。眉宇にあらわれる気性の激しさが印象的で、未来の信長を思わせる性格があふれるようだ。

 その雷蔵を持ってきたことに大きな収穫にあったわけだが、徹頭徹尾信長を中心にした演出も十分に功を奏した。これで戦国の世を感じさせる描写がもっとつっ込まれていたら、なおのこと信長の意志も深く見えたことだろう。大映系上映中。 【王】

日刊スポーツ・東京版 03/22/59