三島由紀夫の原作小説を映画化する、大映京都の異色現代劇大作『剣』は、三隅研次監督の意欲的な演出により、快調な撮影を進めているが、このほど、雷蔵主将を藤由紀子が、その見事な脚線美を見せて誘惑するくだりを撮影した。

 大学の剣道部という、珍しい世界に題材を取ったこの作品は、色々と話題を集めているが、久しぶりの現代劇出演に、雷蔵は、ファイト満々。彼の扮する主人公国分次郎は、ただひたすら、剣道に全身全霊を賭け、部員の怠け者には厳しい制裁を課すという、鬼神のようなキャプテン、麻雀、女子大生との恋愛など、他の学生が熱を上げる事には一切無関心で、その上、読書や勉学にも興味を持たないという大変、変った若者だ。

 この主人公に人間の弱さを知らそうと企むのが、川津祐介の三段の部員で、彼は、大学ナンバーワンの美人、藤由紀子をそそのかして、雷蔵キャプテンを誘惑させるわけ。勉強机にステレオ、フランスベッドなどが、ぎっしりとつめこまれた学生下宿の一室というセットが、このシーンの舞台、剣道部員だけに、二、三本の竹刀がたけかけられ、壁に試合の写真などが飾られている。

 川津に呼び出された雷蔵キャプテンは、この部屋にやって来るが、中にいるのが、藤一人と知って帰ろうとする。「話しぐらい聞いてくれてもいいじゃない」と身をくねらして、引きとめた藤は、“ナンバーワン”だけに自分の魅力には自信満々。スイッチをひねって、クールなジャズを流し、ステップを取りながら、ダンスを誘ったり、真剣な表情で愛をささやいたり、ベッドに腰を下ろして、深々とスカートをめくり上げながら、ガーターをなおすなど、大いに雷蔵キャプテンの男性本能を挑発する。

 「これはたまらない、俺など一コロだよ」と彼女の真正面に座った雷蔵は苦笑するが、三隅監督の命ずるまま、恥ずかしそうに、この演技を続けていた藤由紀子、「もう駄目」と顔を真っ赤にそめてうつむいてしまう。三隅監督の説得で、やっと気をとりなおした彼女、「やせているから、セックスアピールなんかないわ」と云いながらも、やっと、その脚線美を披露したが、スタイルは満点の彼女だけに、なかなかどうして立派なもの。一瞬、ツバを飲み込むスタッフもいるなど、セット内は、異常な雰囲気に包まれる。その中で、唯一人、三隅監督だけは、この誘惑場面が主人公の大きな運命のポイントになる重大なシーンだけに、独得の厳しい表情で、的確な演出を続けていた。