洗練されたシャープな感覚と、知性派現代青年の魅力とで、つねに新しいジャンルの演技とスタイルの創造をめざし、かっての時代劇に一線を画す演技に意欲を注入しながら、時代劇のプリンスの名をほしいままにしてきた。━昭和二十九年に映画界にはいった市川雷蔵の十年間の軌跡である。
この一年間をふりかえっても『第三の影武者』『妖僧』など特異な素材のほか、「忍びの者」シリーズで忍者ブームを生み、また「眠狂四郎」シリーズで魅力的な新しい人物像をつくりだすなど、その活躍ぶりは多岐にわたり、市川雷蔵の名に恥じぬ意欲的な充実したものであった。
そして、十年選手になった彼の新しい年は、十年ぶりの本格的舞台出演にはじまり、三十三年にブルーリボン賞を獲得した『炎上』の作者、三島由紀夫原作の現代劇『剣』、さらに石原慎太郎が雷蔵のために書きおろした『一の谷物語』など、注目すべき作品が予定されており、巾広い彼の活躍には一層大きな期待が寄せられるところである。そこで、新春早々話題の多い雷蔵とのインタビューをこころみた。
━日生劇場公演について
雷蔵 「本格的な舞台は丁度十年ぶりです。映画俳優の私や扇雀、鶴之助、猿之助君など若手が演る舞台ですから、やはり積極的な意識がなければということで、一つは古典、一方は多少前衛的な新作物をということで、私は「勧進帳」の富樫と「一の谷物語」の敦盛を、昼夜にわけて出るわけです。もちろん、初役です。なにしろ他のみなさんは現役のバリバリですし、十年のハンディがありますから、父寿海にもお教え願って、精一杯やるつもり・・・」
━久しぶりの現代劇『剣』について
雷蔵 「三島さん一流の美学と、文体の魅力は簡単にお話しできないんだけど、ある意味ではカオスのような現代社会にあって、一切のものに関心をもたず“剣”だけに打ち込み、正しく美しいものへの純粋な信仰に似た精神をもつ青年のものがたりです。少年のころ、太陽と真正直に対峙したこころの経験をもっている青年です。むつかしい素材ですけど、死に至る純粋さには惹かれますね。」
━今後めざす時代劇の方向を
雷蔵 「まァ、ひと口に言えば、人間性への深い洞察をそなえたドラマであるべきだと思いますね。登場人物の人間とか人生についての考えや行動がそのままテーマになっている作品。こころを問題にしたい、そして意識した描き方をしたい。『一の谷物語』も幻想的スタイルだが、恋愛の情の典型としてとりあげたいのです。━それから「砥辰の討たれ」もシリアスな悲劇としてぜひ演りたいものの一つです。・・・」話しは尽きぬほど、新しい年への彼の意欲は並々ならぬもののように見うけられた。