○・・・『大菩薩峠』で机竜之助を演じた市川雷蔵は、大映『忠直卿行状記』(森一生監督)=芸術祭参加=で越前宰相・松平忠直というまた難役にいどんでいる。ことしは原作者元大映社長・菊池寛の十三回忌とあって、東京の『時の氏神・新夫婦読本』とともに、『忠直卿行状記』が京都で製作されることになったもの。

 雷蔵は映画入りの前、カブキをやっていたころ研究会の演劇台本でこの作品を知ったとかで、映画入りして以来六年間も映画化の実現を会社へ申し入れていた企画だっただけに、気の入れようも大変なもの。彼がもう一本実現したいのは、加藤道夫作「なよたけ」だとか。

○・・・大坂夏の陣で大手柄をたてた徳川家康の孫、越前藩主松平忠直は、ふとしたことから自分の武勇の腕前は家臣の追従である、ということを知ってからというもの、まるで別人の人柄になった。理由もなく家臣を斬るかと思えば、つぎつぎと女を犯したり、狂乱の毎日を送るようになる。封建制のもとにゆがめられた若い大名と家臣の主従関係を描きあげる物語。

 撮影はいまようやく白熱化したところで、狂いたった忠直卿の雷蔵が家臣相手に試合をいどみ、自分の真の力をためそうとするシーンを撮っている。

 その家臣の一人になる林成年は、新婚旅行もそこそこのセット入り。スタッフ連から「ぼんちゃん(成年の愛称)おめでとう」と祝福の言葉をかけられ大テレ。顔を赤くしながらも、結婚第一作だとこれも雷蔵に劣らぬはり切りぶりを見せている。

○・・・雷蔵は、「はげしい立ち回りのなかに、自分の実力に対する疑惑をふっきろうとする内心の動揺を、どういうふうに観客にわかってもらえるか、難役だな」ともらしながらも、その成果を心待ちにしている格好である。

(日スポ・東京版 11/04/60)