大映京都では、いま本年度芸術祭参加作品『忠直卿行状記』(監督森一生)を製作中だが、このほど市川雷蔵、小林勝彦、山内敬子、中村鴈治郎らの顔ぶれで、滋賀県饗庭野の陸上自衛隊演習場にロケした。エキストラ千余名、馬百頭を動員して、トップシーンの大坂夏の陣などの群衆場面を三日間にわたって撮影された。
ロケ初日は、徳川本陣の夕景シーンからはじめられた。三つ葉葵の幔幕を張りめぐらし、松明、篝火をたいて数百本の旗、のぼりをひるがえして戦場の本陣がつくられる。最初の場面は、中村鴈治郎の徳川家康をかこんで、関東方の武将がずらりと並んでいる。「本丸がもえる」、「落城だ」という雑兵の口々にさけぶ声が聞こえるなかを、かけつけた伝令が、「一番乗りは越前の少将忠直卿の手勢でございます」とつげる。「なに孫めが一番乗り・・・」と家康は上機嫌。森監督は日暮れどきの短い時間に五、六カットを手際よく進めていく。
翌日は、早朝から明け方の光線を目標に撮影がはじまる。まさに夜を日についでの強行スケジュールだ。敵の軍師真田幸村の首 を浅水与四郎の小林勝彦にもたせた忠直が、家臣を従えて本陣に入る。家康は相好を崩して、「あっぱれでかしたぞ」と手をとって喜ぶ。忠直も、涙をながさんばかりに感謝する。
森監督は「こういうモブシーンを巻頭であまりハデに見せすぎると、この映画の心理劇としてのムードをこわすおそれがあるので、わたしとしてはごく簡単に処理したい」といっているが、それでも千名あまりのエキストラがヨロイをつけて旗をなびかせ、百頭近い馬が野をかけるさまは壮観だ。こうして秋晴れの好天候にめぐまれ、ロケは快調のうちに全スケジュールを無事にとり終えた。
(サンスポ・大阪版10/31/60) |