市川雷蔵、勝新太郎、若尾文子の主演でクランク中の大映京都『初春狸御殿』(監督木村恵吾)は、タヌキの国に舞台をとり、恋と情愛のロマンスをケンラン豪華な歌と踊りの中に描く、純日本調ミュージカル時代劇。小鼓山の美しき若殿狸吉郎(雷蔵)と、狸御殿のお姫さまきぬた姫(若尾)の見合いをめぐって、お国自慢の全国民謡踊りが、夢のようなセット一杯にくりひろげられる。ところで雷蔵、若尾の名コンビが、梅の咲く狸御殿の庭園に美しいデュエットをご披露したこの日の撮影を、そっとのぞいた。
☆・・・狸御殿のきぬた姫は、大のタヌキぎらい。きれいな人間にあこがれて、自分はもちろん家老、腰元にいたるまでシッポを出したタヌキの姿は一切ご法度。そのきぬた姫が、こともあろうにタヌキの若殿狸吉郎とお見合いする羽目になり、きぬた姫はツンとおこって家出してしまう。あわてた家老の狸右衛門(鴈治郎)は、きぬた姫とウリ二つのカチカチ山の娘ダヌキお黒(若尾二役)を召しつれて、急場の難をしのぐ。
☆・・・シーンはこのお黒と、狸吉郎の二人がほのかな気持ちをいだいて、洋楽にアレンジした「春雨」を踊るくだりだ。広々とした御殿の庭園がセット一杯に組まれ、中央に梅の木が満開の花ビラをつけている。金糸、銀糸を織りまぜたデラックスな衣裳の雷蔵と、ダラリの帯に花飾り、日ガサをももった可愛い若尾のお黒が、プレスコの春雨に合わせ、きれいな恋のデュエットを流れるように展開する。
☆・・・踊りには自信のある雷蔵にくらべ、若尾ちゃんはズブの素人。そこで西崎流の高弟の西崎まゆみさんが、つきっきりで踊りの指導を受け持つ。暗く、明るく、また一きわ明るくと、カメラマンの今井ひろし氏も工夫をこらし、このシーンは木村監督お得意のタヌキものだけに、夢の花園に戯れる二匹のチョウような美しさをかもし出していった。
(デイリースポーツ・大阪 12/12/59) |