『炎上』で芸域にぐっと厚みを増した市川雷蔵は『濡れ髪剣法』で再び美剣士にふんし、こんど近作『弁天小僧』ではじめての女装になって、ぐっとイカそうとしている。この映画は、このところ沈黙の伊藤大輔監督が「徹底的に面白く、愉快な時代劇を━」をモットーにメガホンをにぎるチャンバラ映画だが、素材はカブキ劇。もちろん雷蔵は浜松屋の場で、「知らざァいって聞かせやしょう━」の名セリフを、さっそうというわけで、このシーンは『弁天小僧』の見せ場だ。そして、雷蔵は水もしたたる若衆ならぬイレズミのもろ肌ぬいだ悩殺ポーズの女装だ。イレズミは普通はサクラだが、カラー映画の効果をいかすために、菊之助にちなんで、菊を全身に彫っている。

 「歌舞伎のいろんな制約もなく、それに内容の花やかなものなので、どれだけ内面的な性格の掘り下げができるか、大変むずかしいと思うのですが、努力します。黙阿弥原作の白浪、つまり泥坊ではなく現在もよくあるグレン隊の手先のチンピラヤクザ的解釈をもって主人公を演じたいし、その味をうまくだしたいと念じています」

 と抱負を語ったが、東宝の青山京子とも初顔合わせをしている。

(西日本スポーツ  10/09/58 )

 大映の『弁天小僧』は市川雷蔵主演で製作中であるが、約一年ぶりにメガホンを握る伊藤大輔と、雷蔵雄相手役の青山京子は、このところ、伊藤監督は自作の企画化をはねられ、青山京子は菊田東宝演劇担当重役とうまくゆかない。そこで話題の監督、女優に現在の心境をきいてみた。

 伊藤監督は一年間にわたって『十六人の花嫁たち』『三十間重棟由来』から取材した『わが母は柳の木』など脚本、監督で企画をたてたが、蹴られた。「“自作の二作”の企画は、会社現状から取りあげてくれなかったが、私の野心作であるので、機会をみていつかどうしても製作したい。『弁天小僧』は天下り企画だが、大映カブキ調の娯楽作品として扱ってみたい。主演の雷蔵君とははじめてだが、歌舞伎出身でもあるので、うまくやってくれると楽しみにしている」

 一方の青山京子は九月いっぱいで東宝との契約も切れ、再契約を交渉中だが、芸術座の「人間の条件」の三益愛子の代役の話が、菊田演劇担当重役と感情的対立からこじれ、いまだ結んでいない。「三益さんの役柄は、全然、わたしの役どころではないのでお断りしたまでです。そのことで菊田先生が感情を害したかどうか、わたしの関知したことではありません。東宝との再契約はわたしの希望が通れば結びますが、条件がいれられなければ再契約しないかもしれません」と語っていた。

(西日本スポーツ  10/20/58 )