☆あらすじ☆

 十一代将軍の側室に生れた若君(本郷功次郎)が岡崎藩の食客からやっと日の目を見て、甲州鷹取藩五万一千石の城主になる。落イン三十八人もの中からクジで当たったのだから、まさに大当たり。娘の子を推して、もれた老中が恨み、親子対面にのぼる道中、浪人一味を使って襲う。幾度も危機にあうが、いつも旅がらすのやくざ(市川雷蔵)に助けられる。お守役は若殿をやくざに化けさせるが、かぎつけられ命を落とす。死に際して後事を旅がらすに頼む。やくざと若殿は兄弟分になって押しよせる浪人殺し屋をしのぎながら旅をつづける。やくざには彼を追う女(淡路恵子)があり、若殿は三島女郎に売られる娘(中村玉緒)と恋しあうという話がからむ。やくざは一計を案じ、浪人一味を若殿のお墨付で買収に成功。箱根の関所も首尾よく通りぬけ、無事江戸に着く。ところがこの若殿、将軍の面前で仁義やタンカを切り、暗殺をはかった老中をやっつけてサッサと殿様を廃業、兄貴や恋人のもとに帰ってくる。

 ☆短評☆

 このラストがおもしろい。ルウティンをひっくり返し、時代劇ののびのびした自由さをしめしたものだ。八尋不二脚本はさかんに人間や事件のとっぴな配合を試みている。若殿とやくざの友情、世子三十八名をクジにする公明さ、刺客のお墨付買収、関所の茶番劇、それに殿様廃業ぶりと勝手な虚構をひろげるのがうまく、笑いを作りあげた。

 田中徳三演出も快調にすべる。若殿本郷と娘玉緒のコンビを清新に点出している。マヒナ・スターズの使い方も適当に哀感を流してうまい。市川雷蔵は筋のうえでは主動的ではないが、その代わり終始もうけ役みたいなもので、やっぱり光る。こういう軽時代劇になると実に明るくのびやかで、彼独特の品がものをいう。だいたいこの種の軽時代劇は、ものものしい重量時代劇よりもオリジナリティーもあれば若い弾力性もあって、ずっと楽しい。料理ぐあいもこれなら珍味に近い。(君島逸平 西日本スポーツ08/06/59)

   

 

Top Page