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 ケンランたる元禄文化を背景に、世之介のあくなき女体遍歴をえがく井原西鶴の名作「好色一代男」を、大映京都で、いま撮影中。演出には気鋭の増村保造監督、シナリオに白坂依志夫、撮影に村井博という現代劇のトリオを起用。主演は市川雷蔵の世之介を中心に、若尾文子、中村玉緒、水谷良重、近藤美恵子、浦路洋子、阿井美千子、船越英二、中村鴈治郎らが顔をそろえている。足かけ四年ごしの宿願をはたす雷蔵は、世之介の好色ぶりを柔軟な演技力で表現しようとさかんな意欲をみせている。

 セットは、世之介があまりの放蕩のために父夢介(鴈治郎)からカンドウされ、流転のすえ、北国の漁師町にたどりつく。そこでその町のボスである網元のメカケになっているお町(玉緒)を知る。甘いことばと持ち前の色男ぶりでお町を陥落させ、きびしい監視 の目をのがれて、二人でかけ落ちをする。命がけのかけ落ちで、若い二人の情熱はたぎる。山中の辻堂にたどりついた二人、ドロだらけになったお町の足をきれいにぬぐい、寒さにふるえるお町に、自分の着物を一枚ずつぬいで着せかけてやる。フェミニストぶりを発揮するひと幕である。そして若い二人は感きわまって、堅く抱きあう・・・。

 増村監督のするどい眼が執拗に 雷蔵・玉緒の転々するラブシーンを追う。ブルー・リボン、ホワイト・ブロンズ賞の演技賞をうけた玉緒が、ことしの第一作として、はじめて増村監督と組んでの仕事だけに緊張そのもの。これを雷蔵(世之介)がたくみに冗談をいいながらほぐしてやる。なかなか堂にいったフェミニストぶりに、増村監督も「その調子、その調子」と雷蔵をけしかける。

 だが、そこは毒舌家の雷蔵、「玉緒ちゃんの足はドロだらけでほんとうにいたいたいしいから、いたわってやろうという気持ちに自然となってくるんだ。いままでは玉緒ちゃん、玉緒ちゃんと気安く呼んでいたが、いまや時代劇女優のナンバーワン的存在になってしまったから、おそれおおくって・・・」と玉緒をからかう。

 玉緒はポーッとほお赤らめ、「そんなことはありません。賞をいただいたのも、みんな雷蔵さんらのよいリードがあったからで、わたしひとりの力じゃありません、まだまだ私などに演技力というようなものはないし、なにぶんともよろしく・・・」といたって低姿勢。

 ネバっこい演出ぶりで知られている増村監督も、この二人のイキのあったコンビには、ほとんど口出しもせず、もっぱら独特のカメラアングルの設定にこりつづけ、熱のはいった撮影風景を展開していった。

(02/20/61)