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『黒い十人の女』のシナリオ執筆中の市川監督が、ヒョッコリ大映京都に姿を現わした。ここで撮影中の増村保造監督の『好色一代男』が初の京都作品であり、時代劇でもあるというので、激励のために西下したのだという。そこであわただしいセットの合間に、市川スタイルといわれる“くわえタバコ”でボソボソと語る市川監督と、増村保造監督の対談にマイクを向けてみた。 市川: 『黒い十人の女』の打ち合わせもあってね。大体『好色一代男』は、雷蔵君といまから四年前『炎上』のセットで、時代劇についてディスカッションしたとき候補にのぼった作品でねえ。そのとき『好色━』と『梅川忠兵衛』が話に出たんだよ。ところが梅忠は東映がやったろう。『好色━』は自分がいい出した責任もあるんでね。心配なんだよ・・・、白坂の本がなかなか面白いものになっているからいいじゃないの。 増村: スタッフも去年のいまごろ市川さんの『ぼんち』で成果を上げた人たちでしょ。市川さん式に協力してやってくれますんでね。自分のペースにうまくのってくれてます。市川流に申し上げるなら、元禄の風俗で人間喜劇をえがき上げるわけです。仕上げを見ていてください。 市川: 雷蔵君は見た目以上にモダンさをもってる男ですね、自分の思うとおりに動かし、持ち味を引き出せばおもしろいスターだよ。女も若尾、水谷などそろっているし、時代劇という意識を無視して、自分のぺースでやりなさいよ。雷蔵君というのはいっしょに仕事をすると楽しいんだよ。 増村: 雷蔵さんは、市川さんと組んで二本仕事をしてるし、ふつうの時代劇スターとちがい、崑さんの感化を受けた人だからうごかしよいですね。その点助かります。またひじょうに感受性が強いし、役者としての根性というか、立派なものをもってます。ところで『黒い十人━』のほうはどうなんです? 市川: 和田夏十がいま執筆中でね、現代の最前線をゆくのはテレビだろう。消耗度が激しく、人間性を喪失する世界、そこに働く主人公やテレビタレント、スポンサーなど女性十人をえがいているものなんだが、シンは四人だ。京都から玉緒(中村)を連れてゆこうと思っている。どんなものになるかまだ本ができてないんでね。だいたいボクのペースは、いくら力んでも企画・脚本・演出とボク流にやるから年二本だな。ことしはあと一本というわけだが、雷蔵君ともまたやってみたいと思ってるんだ。『ぼんち』ではイーストマン、『おとうと』では特殊処理のムードカラーというやつをこころみたけど、こんどの『黒い十人━』は白・黒でやるよ。 増村: 楽しみですなあ、コチラの仕上げも期待してくださいね。 (02/26/61) |