理想の女性恭子さんの横顔

 雷蔵の父は市川寿海だが、寿海は実は雷蔵の養父なのだ。家庭的にも恵まれていなかった雷蔵が、はじめて、自分の手で握った幸福であった。

 「恭子さんは100パーセントわたしの理想にちかい人です。もっとも、恭子さんの方は、どうか知りませんが━多分、眼鏡をかけている人はキライだと言ってたから、ボクは落第かも知れませんが━」

 めずらしくそんな冗談を言い、肩をすくめてみせる雷蔵。そんなところに、しみじみとした幸福感があふれている。

 「来年三月挙式となると、学校は、まだ卒業してないですが、許される範囲で、通信教育とか試験にだけでるとかの方法をとって、卒業だけはしてもらいたいと思います」

 恭子さんの答える質問の多くを、雷蔵はかわって答えている。そして、この発表の席は雷蔵の養父、市川寿海の

 「本日、藤山(勝彦氏大日本製糖社長)夫妻の媒酌で結納をとりかわしたことは、父としてこの上ない喜びです。本人にはかねてから、自分の理想にあう人がいたら、たとえどんな人でも反対しないからと言っていたのですが、幸い、こんないい人を見つけた・・・。この上は、早く孫の顔が見たいものです」

 というあいさつでこの発表は終わった。

雷蔵らしい婚約発表

 ところで、この婚約発表によって、雷蔵は事実上、永田社長と親子の関係になるわけだが、それは言いかえてみれば、将来は大映の重役の椅子を約束しているともいえそうだ。すでに、長谷川一夫が重役の椅子を持ち、京マチ子にも、その準備があるとなれば、雷蔵も必然的に“大映重役”の肩書が加えられることになろう。

 「永田社長が雷蔵の人柄を見込んで、恭子さんを、雷蔵とムリに結婚させた」

 という見方がささやかれたことがあるが、これは、雷蔵の人柄、それに、永田社長の人柄から見て、見当はずれの見方といえそうだ。

 ━中村錦之助についで、そのよき競争相手であり、人気の点でも、錦之助と両分した雷蔵も、ついに結婚を発表した。しかも、雷蔵らしく騒がれるのを嫌い、自分たちだけの幸福を必死に守りとおそうとする、それは、派手な映画スターにはめずらしい、地味な婚約発表であった。(森松記者)

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(週刊大衆 01/20/62号)