大映の正月映画『人肌牡丹』は約六割撮り終えた。加賀百万石のお家騒動を背景にするこの映画は、山本富士子の七変化が話題で、そのうち四変化がカメラに収められたわけ。 @町娘・・・江戸頬白長屋に住む美しい娘深雪は、母の遺言で形見の鈴をたずさえ、母の故郷加賀へ旅立つ。これが話の発端。島田も重たげに柳によりそえば、ういういしい色気がただよう日本の美女だ。 A虚無僧・・・加賀藩はお家乗っ取りを策する陰謀派のために危機に瀕していた。正義派の江戸家老に密書をたくされた腰元園絵(三田登喜子)が陰謀派に襲われた時、こつ然と現われて彼女を助けた虚無僧。天蓋をとると深雪の顔が・・・このかっこうは自信がないと最初はしぶったお富士さんだが、扮したところは御覧の通り。 B女やくざ・・・加賀についた深雪は陰謀派一味の集まる賭場に緋牡丹のお雪と名乗って現われる。さっと片肌ぬげば真赤な牡丹のいれずみ・・・のはずだったが、お富士さん恥ずかしがるので、牡丹の模様の長襦袢がみえることになった。共演の市川雷蔵がひやかして、「それじゃ“人肌牡丹”じゃなくて“片肌牡丹”だ」 C若衆・・・江戸家老の使者仙石右近として城中に入った深雪は、毒殺されかけた殿様を助けて大活躍。前作『人肌孔雀』で、もっとも好評だっただけに振袖若衆姿はお気入り。気付や化粧もぐっと念を入れた。さらに踊りの師匠、姫君、「連獅子」の子獅子と三変化の撮影が残っている。 (サンケイスポーツ 58年11月20日) |