芸術座の舞台(有吉佐和子脚色・演出)が、しばしば観客を笑わせながら展開するのとうって変って、増村保造監督による映画は、ときに生理的な反発を感じさせるほどのどきつさをまじえて描く。

 青洲によるネコの麻酔薬実験、加恵の出産のもだえ、おばけのようにふくれあがった患者の治療・手術の場面などだ。映画はそれらをなまなましく描くことによって、人体実験を申出て愛を争う嫁としゅうとめの戦い、それを利用して実験を敢行する医者としての青洲という、この物語のもつ、すごさを裏づけようとするのは理解できるが、それは過度にグロテスクである。

 にもかかわらず、そのことを除けば、映画はこの激しいかっとうの物語を、見ごたえのあるたしかさで描写し、女の壮烈な生に新鮮な興味を抱かせる。

 紀州の庄屋の娘加恵(若尾文子)は、いなか医者の妻於継(高峰秀子)の美しさに魅せられ、そのあこがれの於継に望まれて、京に遊学中の息子雲平、のちの青洲(市川雷蔵)の嫁として華岡家にとつぐが、雲平の帰郷後、母於継の加恵に対する態度は一変し、雲平への愛の強さを競い合う嫁としゅうとめのすさまじい内面の戦いが始る。於継を演ずる高峰が、美しさと冷たさ、母としての気位としゅうとめとしての屈辱を表現し、物語のカナメとして印象的だ。 

 二人の争いは、雲平が研究している、危険な麻酔薬の人体実験を申出ることで頂点に達し、身を犠牲にすることで貫く女の生き方のすごさが、この異常な設定の中で描かれる。加恵はより強い薬を飲んで失明したことにより、於継に勝った。このせいさんな争いを見つづけてきた雲平の妹小陸(渡辺美佐子)が、死の直前に「私は二度と女に生れたくない」と加恵に語るところが、この物語の一つのしめくくりである。

 妹の死をくいとめ得ない青洲の苦しみと、それに裏うちされた麻酔薬研究の執念という、ヒューマニティーも強く描かれていて、納得がいく。有吉佐和子原作、新藤兼人脚本。黒白、一時間三十九分。

(朝日新聞 10/25/67)

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