、菊地寛の代表的名作を大映京都が監督森一生、主演市川雷蔵で映画化する今秋の芸術祭参加作品『忠直卿行状記』で、新派の水谷八重子が四年ぶりに映画出演することになり、雷蔵と親子の役で初顔合わせするというので話題となっている。

 水谷は舞台出演のあい間を縫っての忙しい京都入りだが、大映京都へは二十五年の『愛の山河』以来十年ぶりの登場であり、さらに三十二年松竹の『大忠臣蔵』から四年目の映画出演だという。

 「わたしたちは舞台がホームグランドですから、映画はいつまでたっても万年一年生です」というが、さすがに新派の大御所だけに貫録も十分。森監督も、「とくにこの映画全体の締めくくりのような役で出ていただいていますが、さすがに立派なものです。わたしは十六、七のころから水谷さんのファンで、いまさらヨーイ、ハイもおかしなぐあいです」とご満悦。

 彼女の役は清涼尼という忠直卿の生母で、忠直が酒と女におぼれ、あげくのはては人妻を犯し、家臣まで刀にかけるという狂乱の行状が、ようやく幕府の知るところとなり、大名としての地位が取り沙汰されるようになるが、清涼尼は幕府にわが子の助命を嘆願した結果、切腹だけは免れ、豊後の配所へ囚人として送られることになった旨を、上使に代わって忠直に伝えるというところ。久方振りの親子の対面が、永久に別れ別れになるその瞬間であったという皮肉なめぐり合わせに、思わず感動の涙がわきおこるという、この映画の最大のヤマ場である。

 撮影は城内大広間に清涼尼を迎えたところから始まるが、雷蔵もこのベテラン相手に堂々とわたり合って、この感動シーンをしだいにもりあげて行く。

(西スポ 11/07/60)