大映の『大菩薩峠』(三隅研次監督)はこのほど撮影を開始したが、机竜之助になる市川雷蔵の意気ごみは大したもの。先輩スターの演技から脱皮した、新しいタイプの竜之助を表現しようとしている。演出の三隅監督も剣豪としての扱い方をさけて、雄大なスケール、剣のすごさ、愛欲と三つのポイントに、時代劇の面白さをプラスして、ロマンチックに描こうとしている。雷蔵は、独特の“音なしの構え”を京都府警の剣道八段森田鹿蔵師範に師事、連日撮影所内で練習にはげんでいるが、この音なしの構えにも、いままでの流儀とは違った新しい型をとらえようと懸命だ。

 雷蔵は、「机竜之助にはきまったイメージがあるが、ヘタするとモノマネになるおそれがあるから、ちがった面を出したい。人を見れば人をきる、女を見れば犯すという静かな虚無でなく、能動的な虚無感、新しい竜之助としての人間像をだすとともに、未完成な人間としての竜之助を出してゆきたい」

 と語り、森田師範とのするどい気合いをみせていた。

 

 (サンスポ・大阪版 09/14/60)