大映京都の娯楽時代劇『大菩薩峠』(監督三隅研次)がこのほどセットから撮影を始めた。この作品は中里介山の原作を脚色衣笠貞之助で映画化するもの。戦前に大河内伝次郎、戦後に片岡千恵蔵の竜之助で映画化されている。こんどは新歌舞伎座出演を終えたばかりの市川雷蔵の主演で、共演は山本富士子、中村玉緒、本郷功次郎ら。第三部作として製作されるわけで、今回はその第一部だ。

 初日のシーンは雷蔵の竜之助とお浜役の中村玉緒のからみ。宇津木文之丞の妹といつわる玉緒が、雷蔵に、「御嶽山奉納試合の勝ちを兄に譲ってくれ」といい、これに対し、「武士の勝負は女の操」と冷ややかにこたえた雷蔵が、玉緒を水車小屋で犯す、といったくだり。

 雷蔵は放れ駒の紋がついた黒い着流しに頭は浪人マゲといった扮装。舞台公演の疲れからか、顔などやせ細くなった感じで、ニヒルな竜之助にピッタリ。一方の玉緒は武家娘の衣装をつけ、みるからに暑そうである。

 第七ステージにくまれた水車小屋で二人の芝居がはじまる。雷蔵にいどまれた玉緒が逃げようとするが、帯をつかまれて倒れる。帯がほどけ、着物がみふだれて赤いケダしが見える。なまめかしい姿態だ。なおも逃げようとする玉緒。雷蔵はついに玉緒をあらナワでうしろ手にしばりあげる。これまで冷たい光を放っていた雷蔵の目が、一瞬欲情にかがやく・・・。

 三隅監督は、「原作は剣豪ものといった印象が強いが、ロマンチックな面もあるわけだ。私はこの面も強くうち出し、時代劇のおもしろさをこの作品に集約するつもりです」と演出の抱負を語る。

 

 (サンスポ・大阪版 09/10/60)