舞台、テレビで競う『華岡青洲の妻』の映画化が、大映京都撮影所ですすんでいる。青洲(市川雷蔵)をはさんで激しく対立するしゅうとめ(高峰秀子)と、嫁(若尾文子)の物語。初顔合せの高峰と若尾は役柄とは逆に仲がいい。

 「だいたい私は気の合わない人とは男優さんでも、女優さんでもいっしょに仕事はできない。違った役柄をそれぞれ演じる以上、ライバルという気持はまったく感じません」と高峰はさばさばといってのける。若尾も「大先輩だし、ひとりの女性としても教えられることが多い」と、心強そうだ。

 高峰は撮影にはいる前、原作者の有吉佐和子さんに「青洲の母は、本当にいじわるな人なのかどうか」とたずねたそうだ。有吉さんは「女ならあたり前だし、わかるでしょ」と答えそうだ。高峰も若尾も私生活ではまったく、しゅうとめと嫁という感情の経験がないが、撮影にはいったいまは、女の本能のようなものがよく理解できるという。

 雷蔵は、ひそかに漢方医や京大、和歌山医大などをたずね歩いて勉強し「天才のエネルギーのようなものを表現するのが、僕の役割だ」とはりきっている。

 「暑さには弱くて・・・」と京都のむしぶろのような残暑に、弱音をはく高峰と若尾は、ライトの中で首筋からアゴから汗をしたたらせる。「秋の場面だから汗をかかないで・・・」と増村保造監督の無理な注文もとぶ。

 「秋の文芸作品は、いつも暑いときに撮影にはいるのだからしかたがない。でも、日本映画界も、二、三年前にくらべると企画はよくなってきたのではないかしら」と、高峰は語っていた。

(朝日新聞 09/02/67)

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