【あらすじ】 

 天明の紀州。加恵(若尾文子)は二十一歳で外科医の華岡家にとついだ。夫雲平(市川雷蔵)は京都遊学中、夫のいない結婚だった。姑の於継(高峰秀子)は加恵のあこがれのひと、その人に所望されて嫁にきたことをよろこぶ。於継も加恵をいつくしみ、教え導いた。三年たって雲平は帰ってきた。初めて見る夫だった。

 その時から、於継の加恵にたいするようすが違い出した。加恵は冷たくのけもにされ、姑の権力が、雲平への愛情を独占するような気持ちに追いこめられる。母とは別のヌカ袋を新調したり、夫の命で薬草をつんだとき、なんとなく勝利感を味わうようになる。加恵は一女を生む。

 雲平は青洲と名を改め、麻酔薬の完成にはげむ。それが間に合わず青洲の妹、於勝(原知佐子)が乳ガンで死ぬ。於継は麻酔薬の実験に自分の体を投げ出す。加恵もまた申し出て、先を争う。青洲は二人を実験台にした。母には弱く、妻には強く投薬して・・・。

【短評】

 於継と加恵の人体実験は、二度繰り返される。死を覚悟して飲む緊迫感、目をさましてからの誇らしさ。凄壮きわまりない。もっと大きな見どころだ。凄壮さは、於継が嫁よりも弱い薬を飲んだと知ったときの口惜しさの号泣で、頂点に達する。嫁と姑の対立はここに至るまでに徐々に高まり、表はいかにも端正に、裏は火花を散らす日常をならべてきた。高峰秀子と若尾文子のかみ合わせ、その熱っぽい好演技に情景は一だんとすさまじい。

 二人の間に立ち、外科医の冷静さで処理する青洲も、市川雷蔵の巧技で印象深い。二人をたくみに操縦利用した男のずるさや、賢さをも合わせて描出したものだ。かくて麻酔薬は完成し、1805年全身麻酔による世界初めての乳ガン手術に成功するという歴史を作る。しかし、その前に完敗をさとった於継は病没、加恵も度重なる実験に失明した。偉大な事業は完遂されたが、二人の女は女の本性的なものに命をかけてついえた。

 試写に際し、若尾文子さんが述懐したように、女のあわれさが身にしみる。嫁姑の問題は時代を越える永遠のテーマだ。原作者有吉佐和子の巧緻なとらえ方によって、映画もまた大きな問題を投じよう。勝敗の一点ではつねに結局姑の負けになるものの、それだけに強がる姑に、かなしさをもおぼえよう。それも含めて増村保造演出は、問題のすべてを大へん手際よく浮き彫りにしている。演技者の目も指も体も、緊迫した心の動きを表徴し、いささかのゆるみもない。日ごろの増村演出の、趣味的饒舌はもはやない。日本映画の今年の最高力作だ。(君島逸平) (西スポ 11/04/67)

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