桓武遷都以来千二百年、日本の歴史の全てが京都を中心に綴られた。そのためか一木一草にいたるまで古い都の懐かしさが漂っている。その昔、清盛が牛車に乗って都大路を行き、勤皇、佐幕が加茂の河原で血煙を上げたと思うと、まさに京都は時代映画のメッカである。

 最近はスクリーンプロセス設備による特殊撮影で、ロケイションの手間をはぶくことも多くなったが、やはり現地ロケに優る実感は出てない。そこで銀幕にうつる「時代映画の背景」をカメラとともにハンチングした。

 臨済宗妙心寺派の大本山で、時代劇のロケ地としてはまず横綱級である。山門を入るとそり橋のある蓮池が見え、さしあたり侍と腰元の密会シーンにはうってつけの場所。

 それに仏殿法堂の重厚な堂宇がならび、禅宗伽藍としては規模の雄大さにおいて大徳寺と並び称されている。それだけに果たし状つきつけての決闘場としては尾上松之助の活動写真時代からトーキー初期、さらに天然色と飛躍した現在まで、ここにカメラをすえてロケされること何百遍にものぼり、近所のファンもロケなれして浩吉、錦之助、千代之介ら人気者が撮影にきてもあわててかけつけるようなこともない。いかにも時代劇のメッカらしい。

 また山内には、桂春院、天授院、大心院などの塔頭がそびえ、ふるびた白塀と石だたみに、時代の変遷を感じさせ城下町のふん囲気は十分。善悪いりまじっての暗殺シーン、暗夜に乗じて塀をのりこえての忍び込みシーンなど、セットでは表現できない実感が漂う。

 だが山内各寺院とも室内撮影は文化財の破損などに気をつかい、ロケ隊をしめだしているという。

アクセス

◆JR花園駅下車 徒歩約5分
◆市バス・京都バス 妙心寺前下車 徒歩約3分
◆京福電車 妙心寺下車徒歩約3分

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(西日本スポーツ 10/26/56)