桓武遷都以来千二百年、日本の歴史の全てが京都を中心に綴られた。そのためか一木一草にいたるまで古い都の懐かしさが漂っている。その昔、清盛が牛車に乗って都大路を行き、勤皇、佐幕が加茂の河原で血煙を上げたと思うと、まさに京都は時代映画のメッカである。

 最近はスクリーンプロセス設備による特殊撮影で、ロケイションの手間をはぶくことも多くなったが、やはり現地ロケに優る実感は出てない。そこで銀幕にうつる「時代映画の背景」をカメラとともにハンチングした。

  

南禅寺土塀

まるで武家屋敷

 “寝たる姿”で、かの有名な東山の村麓にあるのが南禅寺。その昔、大泥坊の石川五右衛門が住み、京の街々をながめて「絶景かな、絶景かな」と叫び、いまもなお歌舞伎狂言としてのころ同寺の、どっしりした山門の威容は、比類なく、東映の『石川五右衛門』では、そのまま活用されたが、ロケ隊もさすが楼門にだけは入れなかったといわれる。

 この山門、両側は、土塀に松の樹々が風情をそえて宗派寺院が、整然と並び、まるで城下の武家屋敷と見まごうほど。

 東山にこだまする梵鐘を効果的に、善悪いりまじる剣士の立回りから、供侍をあとにした老臣の出仕シーンなどには、絶好の地。

 古都をたずねる人々にとって忘れられない閑静なこの山麓一帯は「東山三十六峰静かに眠る・・・」の活弁時代から、いまにいたるまで、かくことの出来ないロケ地である。

 

青蓮院

所司代で登場

 浄土宗総本山、知恩院から平安神宮に通ずる粟田口は、昔の刑場のあった地で、時代映画に出る京の罪人すべてが、ここで刑場の露と消えた。

 青蓮院は代々親王が門跡となり一名、粟田御所ともいわれる由緒ある寺院で名園のある殿舎も昔のままだが、映画のロケとして使われるのは殿舎より、幾百年かの樹齢を数える大ムクの木を配し、石段を登りきった舎屋で、勤皇、佐幕で混乱する京都の所司代として幕末映画にはしばしば銀幕に出ており、とくに鞍馬天狗ものには、かくことの出来ないロケ地だ。

 面白いのはこの青蓮院に、戦後、子供映画の巨匠、清水宏監督が『蜂の巣の子供たち』を収容、善導に努めていたことはあまねく知られている。

アクセス

◆地下鉄東西線 蹴上駅下車 徒歩10分
◆市バス 南禅寺・永観堂道前下車 徒歩10分

アクセス

◆地下鉄東西線 東山駅下車 徒歩約5分
◆市バス 神宮道 徒歩約3分

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(西日本スポーツ 11/02/56)