桓武遷都以来千二百年、日本の歴史の全てが京都を中心に綴られた。そのためか一木一草にいたるまで古い都の懐かしさが漂っている。その昔、清盛が牛車に乗って都大路を行き、勤皇、佐幕が加茂の河原で血煙を上げたと思うと、まさに京都は時代映画のメッカである。

 最近はスクリーンプロセス設備による特殊撮影で、ロケイションの手間をはぶくことも多くなったが、やはり現地ロケに優る実感は出てない。そこで銀幕にうつる「時代映画の背景」をカメラとともにハンチングした。

本法寺の二重塔

 

 目をあやな西陣織をおる音も間近に聞かれる洛北にあるのが妙覚寺。何十年も修理されない古木の山門に雑草おい茂り、築地塀くずれるがまま、塀板は心ない人々によってひきちぎられて焚火となり、まったく荒れ放題。だが井原西鶴描く江戸軟文学の風情をいまもそのままに残している。

 それだけに故溝口健二監督好みのロケ地で、これまで『雨月物語』の混雑した市場、『西鶴一代女』ではたむろする辻女のシーンにこの地を選んで国際的注視の格調ある作品とした。

 付近の本法寺はその昔、光悦檀徒になったゆかりの寺で、朱塗りの法塔を生かし『新平家物語』(溝口監督)の市場のシーンをカメラにおさめている。

 両寺のわびしさ、これからはいかなる監督がとらえるだろうか。茶道の裏千家は同寺前にある。

アクセス

◆地下鉄鞍馬口駅下車 西に徒歩15分
◆市バス 堀川寺之内下車 北に徒歩5分

 

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(西日本スポーツ 10/28/56)