大映の市川雷蔵はハワイでの劇場挨拶のため、三十日夜十一時五十九分羽田発のパン・アメリカン機で出発した。金田一敦子、叶順子、二木多鶴子らから花束を貰って、「初めての外国での正月です。ひとつ元日はワイキキで初日の出を見ながらひと泳ぎしてきますよ」とニコニコ顔だった。

 雷蔵は二十八日まで京都で『濡れ髪喧嘩笠』の撮影をやって、二十九日上京。それから羽田から飛び立つまで宿舎の帝国ホテルで新聞、放送などのインタビューに追われつづけの、文字通りの師走のあわただしさだった。

 この飛行機でハワイ時間三十日午後三時二十分にハワイ着、元日、二、三日の三日間、大映系の国際劇場で挨拶かたがた清元「お祭り」を踊るという。そして、すぐ四日夜にたって六日、日本時間で朝七時半羽田着、翌七日から早速『濡れ髪・・・』の仕事にかかるといったスケジュール。

 「観光旅行どころではありません。私はハワイの日系の人たちの生活をじっくり見てきたいのですが・・・。上院議員に当選者を出すほどまで日系の人たちが高い地位を築きあげた。それまでの努力は並大抵のものではなかったと思います。日本人ではない、アメリカ人の日本人に興味をひかれるのです」

 何か、頭の中につかんで帰ってくる、と勉強家の雷蔵の渡布の弁である。映画の方は『濡れ髪・・・』のあとすぐ正月下旬から山崎豊子原作、市川崑監督『ぼんち』に入り、喜久治の役をやる。共演は京マチ子、若尾文子といった異色作だ。

 「きのう市川崑監督に会って、いろいろ打ち合わせましたが、監督の演出の狙いは女体を通じて人間的な生成をとげる一人の男の姿を描くのではなく、別の角度から取り上げるという話でした。新春第一のたのしみですな」

 出発するまで、仕事となると能弁に語りつづける雷蔵だった。

(12/31/59 日スポ・東京版)